坂本さんは、1943年生まれ。
いわゆる‘団塊の世代’よりも、ほんの少し若い世代になります。
経済学部を卒業後、保険会社でサラリーマン人生を送ってきました。
58歳の夏、六本木の路上で、急性心筋梗塞のため倒れ、
生死の境をさまよいます。
一旦職場に復帰できたものの、さまざまな想いが膨らみ、
また(本人いわく)「濡れ落ち葉にだけはならないで」という
奥方様のご意向もあり、大学生になることを決心し、
定年まで1年と少しを残して、退職されました。
東京外語大学に社会人入学。ポーランド語を学び始めました。
なんと、40年ぶりの学生生活です!
(本人いわく)「バイトにもデートにも縁がなく、時間だけはたっぷりある」ため
勉学に打ち込んで、成績はいつもトップクラス。(担当教授のお墨付き!)
スピーチコンテストに入賞し、副賞でポーランド短期研修に出かけたり、
語学劇に「学校始まって以来、最高齢記録!」で出演したり、
若い人たちと新たな友情を育んだり、とそれはそれは充実した学生生活です。
この本は、所属サークルの冊子に連載していたものが
あまりにも好評で、まとめられた、ということです。
照れ屋で謙虚で、ウィットに富む、坂本さんの人柄が浮かび上がった、
読みやすい内容になっています。(好きなところから読めます。)
キャンパスを歩く坂本さんは、事情を知らない学生たちには
保護者か教授にしか見えず、お辞儀されることもたびたびなのだとか。
「いくつになっても、人は生き直せる!新たな喜びを見出すことができる!」
という勇気をもらった読者も、たくさんいることでしょう。
(でもねえ、本当は、こういう話が「新聞ネタ」や「話題の本」にならない、
つまり、みんなにとって普通のことになると良いのに、と思います。)
私がスウェーデンの大学で学生生活を始めた際には、
「社会人として働いた後に大学へ戻ることは、普通のこと、
齢を重ねている人でも、まったく新しい方向へ人生を転換させるために
大学へ戻ることへも、門戸を広く開放している」という状況を
まのあたりにして、ある意味で驚愕してしまったのを憶えています。
(もちろん、安易な考えでは、すぐに脱落します。)
しかし、それに少し慣れてくると、バラエティーに富んだ学生がいることは
ゼミやクラスの議論にも深みが出るなど、
学業上のメリットも多いことを知りましたし、
個人的にも、幅広い年齢の人たちと年齢や肩書きにとらわれずに
友情を育むことが、一生の宝物になることを、確信してゆきました。
日本でも、これからは「本当に何かを学びたくて」大学へ戻る人が、
もっと増えれば良いのに。
それは、学内を、ひいては社会を、
やがては大きく変えることにつながるのかもしれません。
方向転換をすることが、珍しくない世の中、
方向転換を決心する人たちに、温かい世の中は、
わが国の場合、近いでしょうか。
『老学生の日記 63歳・東京外語大3年』 坂本武信・著
産経新聞出版
2006年12月11日第一刷
ISBN4-902970-77-5
800円+税
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