初演(1986年)の千秋楽を新橋演舞場で観た時、まさに衝撃を受けました。
口語で編まれた和製ミュージカルのようなもの。
歌舞伎の伝統的な手法をふんだんに用いています。
海外のダンスやマス・ゲーム、曲芸などからも
演出や構成のヒントをたくさん引っ張ってきています。
ま、「ちょっと独特のクドサがあるよね」という人もいますが、
とにかく予備知識なしで、一回は観ていただきたい作品です。
ハイ・ビジョンなどで丁寧に映像化されたものが
海外で広く紹介されたら良いだろうに、とも思います。
伝統的な歌舞伎がまったくわからない客にもわかる。楽しめる。
テンポの速い音楽や作品でないとオモロイと感じない若い世代にもウケル。
本来の歌舞伎を愛す見巧者にも許容してもらえる要素を(かろうじて)残している。
そんな作品を生み出した才能については、いまさら語るまでもありません。
「今の歌舞伎には、‘歌’‘踊り’が手薄になり、芝居だけが突出している」
という危機感から、猿之助さんは長い時間をかけてこの新作の準備をしたとか。
初演時に、「これは歌舞伎だ。本来、‘かぶく’ということは、
その時代に新しいものを打ち出す姿勢なのだ」と胸を張る
市川猿之助さんの心意気に、何よりも強い衝撃を受けました。
普通は、「新しい挑戦」って言ったって、
自分が活動している枠から、とんでもなくはみ出した所で創作することは
なかなかできません。 一歩間違えたら破滅するかもしれませんもの。
ベースに持っているものの確かさ、熟慮、援助、下準備、勇気、運・・・
いろいろなものが必要です。
みんな、いろんな言い訳をしながら、その枠からはみ出ることを嫌います。
あるいは、枠内でこじんまりと「新しい挑戦」と称するものをやって
大仰にPRすることもあるでしょう。
猿之助さんの、その後のお身体の具合はどうなのでしょうか。
2003年、福岡公演中に、体調を崩された後、表舞台から遠ざかっておられましたが
現在は作品の演出は行っておられます。
また最近になって、この作品の上演中に舞台に何度か登場し、
挨拶をなさっている、とのことです。
後ろ盾を持たないお弟子さんたちの精進には、何よりの励みですね。
22年目の『ヤマトタケル』。
現在は、右近さんと段治郎さんのダブル・キャストが主役を競い合いながら、
洗い直しも怠りなく、上演回数記録を更新中です。
今春は、東京⇒福岡⇒大阪⇒名古屋と、4ヶ月連続公演。
弟子たちを、それはそれは厳しく指導されてきた猿之助さんの心意気は
どう受け継がれてゆくのでしょうか。
・・・それにしてもね、師匠・猿之助さんの演じたヤマトタケルは
足が萎えて鳥のように曲がってしまったところなんて、
本当の鳥のそれのように見えたんですよ。(いや、ホント。)
それからね、白い鳥になって飛び去る時には
淋しそうな、でもトビッキリ優しいお顔をされていましたね。
お弟子さんたちにも、そんな「妙なところでスゴイと思わせるもの」を
たくさん見せていただきたいものです。
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