坂東玉三郎さんが、中国の伝統芸術、昆劇(こんげき)に挑戦し、
日本公演の後、ついに中国・蘇州の観客に披露した様子を
上質の映像で間近に観ることができるとは!
通常の歌舞伎とは異なる舞台。
役者根性の迫力を
文字どおり浴びるように
鑑賞させてもらいました。
昆劇は、京劇よりもさらに古い歴史を誇り、
その昔は(シェイクスピア劇のように)男性が女性を演じていたそうです。
女形の絶えて久しい昆劇の世界に、日本から歌舞伎の女形がやって来て
いきなり主役に挑戦するなんて!
『牡丹亭』は、もちろん昆劇の名作の一つで、
関が原の戦いの頃に書かれています。
歌舞伎の誕生よりも古いわけですね。
深窓の令嬢が、花園でまどろんでいる間に見た夢の中で
理想の恋人に出会い、目覚めた後に
恋患いから命を失う、という物語ですが、
死後に生きているその青年と魂が通じ、意外な展開を見せます。
(古典バレエ『ジゼル』に似ているところも、少しあったように思いました。)
踊りや芝居の間に、オペラのようなたくさんの歌が散りばめられています。
歌でない部分の台詞も含めて、古語、蘇州語が使用されているので
(標準の)中国語でさえ勉強をしたことが無かった玉三郎さんは、
2年以上かけて、それを全部こつこつ憶えた、と。
このような(無謀とも言える)挑戦をしようと思い立ったその勇気、
そして、気の遠くなるような努力と精進に、心からの敬意を表します。
蘇州で舞台の準備をする様子や、取材を受ける様子、
大学に招かれて、現地の学生たちを前に講演をする様子の記録も
併せて上映されました。 その中で心に残った言葉を少し。
(メモを取りませんでした。こんな意味のことを説明された、ということです。)
「役者は、たくさんの花を手にすることができます。
しかし、それと同じ数の苦しみも、味わわなければなりません」
「その人の私生活を見ているよりも、
(役者として)舞台に上がっている時のほうが、
その人の本質を見極めやすいです」
衣食住をどう整え、どう命を削り、芸術に捧げるのか。
そのことを、いつもいつも妥協せずに自分に問い続けるその姿勢を
凡人の私たちは、ほとんど畏怖の念をもって画面から読み取ります。
簡単に言えば・・・
「この人って、いったい何を食べて、どう毎日暮らしてるんだろう。
なんか、天上びとか仙人みたいだよなぁ。謎だよなぁ」ってことですね。
玉三郎さんには孤独の影がつきまとっているように見えますが、
それと引き換えに、誰にもできない仕事をしておられることは
やはり神さまからの「ギフト」なのだと、私は思いたいのです。
信頼しておられるライターがいるとするなら、
「語録」をぜひ編んでいただきたいなあ、と思っています。
それもきっと、美しいものの集合になるでしょう。
写真や映像よりも、おもしろいものになるかもしれません。
それから、舞台作品を、より深く、より大きく捕らえる、
いえ、より思慮深く観るための努力を
私は自分に与えられた仕事のうえで
続けなくてはならないなあ、と考えたことでした。
※ シネマ歌舞伎特別篇 坂東玉三郎・中国昆劇合同公演 『牡丹亭』
(2009年3月13-15日公演の記録映像)
公演の様子(動画)、あらすじ、今後の上映スケジュールを含む
詳細はこちら↓↓↓から
http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/botantei/index.html
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