「言ってみれば、独学かな・・・ふふふ」と、
偶然に立ち寄ったパイ専門店のオーナーはつぶやきました。
たった一人で、バターやヴァニラの甘い香りにまみれて
毎日せっせと焼き続けている女性でした。
かれこれ、もう20年くらい前の話です。
「自然食」「エコ」などという言葉が流行るずっと前から
卵や粉も吟味していて、少し割高なお値段。
それでも頑張って買いたくなるようなパイだったのです。
とにかく、この人の焼くパイ皮の層が、
繊細で薄いくせに、1枚1枚がパリッと力強くて、
香りも味もしっかりしていて、常連やファンも
たいそう多いようでした。
パイ皮、(未だの方は)試しに自作してみてください。
とても手間がかかるのが、わかっていただけますから。
店は、ある日、ひっそりと閉じてしまい、それはそれは落胆したものでした。
この夏の始まりに、たまたま同じ地区の雑貨屋さんに
プレゼントの品を探しに行くと・・・
なんと、その正面の駐車場に、懐かしい店名がついたバンが
停まっているではありませんか!
中をうかがってみると・・・あのオーナーの女性が!
「あらー。 お客さんのこと、憶えていますよ。
女ひとりで店を切り盛りするのがどうも大変になってしまって、
決心して店を閉じました。 歳をとると、いろいろ難しいのです。
今では、手の届く範囲で、一人で焼いて、車で販売する形式に。
曜日によって、少し売る場所を変えています。
ここの雑貨屋さんは、以前の店の時からの良いお客さまでした。
それで、ここへ出さないか、と誘ってくださったのです」
おかげで、またときどき、この絶品パイ皮に
ありつけるチャンスが復活したのでした。
でも、何よりうれしかったのは、「絶えた」と思ったもの
そのもの、というよりも、その作り手の心意気が
しっかりと生き続けていた、というその事実でした。
今、右を向いても左を向いても、
ちょっと絵になるコジャレタ店、
気の利いて見えるナンチャッテ・メニュウばかり流行っていますから。
店名は「Love All」と言います。
この夏一番うれしかったことの一つです。
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