喫茶店の片隅で、一番暑い時間を
なんとかやり過ごそうとしていました。
アイスコーヒーとチーズケーキでひと休みです。
老夫婦と若い娘さんの3人連れが入ってきました。 旅行の途中のようでした。
「どこに座る?」と娘さんが入り口でつぶやいた途端に
お母さんが「トゥララララ~♪ ラララ~♪」と大声で歌い始めたのです。
娘さんもお父さんも慌てて、「お母さん、お母さん。ここはお店の中だから
皆さんに迷惑かけるから、歌は歌わないんだよ。静かにして。お願いだから」
と、何度も何度も、お母さんの身体をなでたりさすったりしています。
歌はなかなか止まりません。
娘さんとお父さんは、終いには恐縮してしまって、
3人は、席に座る前に、今にも店を出て行きそうになりました。
・・・と、店の中でおしゃべりしていた3人組のオバチャンたちが
「ふふふふふ。 そんなに気になさらなくても。
お母さんも、お出かけして、こんな店でお食事やお茶ができることを
とっても楽しいなあ、と思っていらっしゃるから、そんな歌が出るんでしょ」
「それにしても、良いお声ですねぇ」 「本当に」と、口々に。
その場の空気が一瞬のうちに和んで、またみんなそれぞれの
くつろいだ時間に戻ってゆきました。
アルツハイマーでしょうか。
そんなにお年を召しているわけでもないのに・・・。
顔の表情も、生き生きした動作も、残念ながらほとんど失われているのに、
うれしい気持ちが歌で表現できるなんて!
そして、それをみんなに伝え、共有することができるなんて!
皆さんの気持ちが和んで、空気が変わった途端に、
お母さんの歌は止まり、表情も穏やかに戻ってゆきました。
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