彼の作品には大変熱心なファンが大勢おられるそうです。英語圏以外にも。
私は脳みその出来が悪いせいか、
‘ひっかかりもっかかり’しか読み進めず
美しいと感じる暇、というか余裕がありませんでした。
相性の問題なのか、消化するのにもっと時間を
要すのか、未だよくわかりません。
病み上がりの作家が、ニューヨークの片隅の文具店で青いノートを入手し、
そこに綴り始めた物語が、綴っている本人の自覚以上に生きているようだ、
ということから始まるのですが、特に前半は枝葉も多く、細部にも注釈めいた
書き込みが多いために、もたついて進みませんでした。
(しかし、この注釈が、「ファンにはたまらない」ようです。)
「この主軸になるエピソードだけ(枝葉無し)だったら、何がまずいんだろう」
と思いながらも、「枝葉を飛ばすと全体がわからなくなるかも」という心配から
飛ばせない、という小心者ぶり。
作家の創作の過程を覗く、あるいは、創作メモを覗く、という意味では
大変興味深いものだとは思います。
「多重構造で、それぞれのパートが呼応し合っている」ところが
おそらくファンにはこたえられないのでしょう。
音楽で言うところの重奏ですね。
気になる作家であることは間違いないので、次は他作品、
例えばエッセイやシナリオなど別の角度からかじってみたいと思います。
興味深い箇所の引用を少々。
「言葉は現実なんだ。
人間に属すものすべてが現実であって、
私たちは時に物事が起きる前からそれがわかっていたりする。
かならずしもその自覚はなくてもね。
人は現在に生きているが、未来はあらゆる瞬間、人のなかにあるんだ。
書くというのも実はそういうことかもしれないよ。
過去の出来事を記録するのではなく、
未来に物事を起こらせることなのかもしれない」
※ 『オラクル・ナイト』 ポール・オースター・著 柴田元幸・訳
新潮社 2010年9月初版 1,800円+税
ISBN978-4-10-521714-3