小説だと勘違いされてもおかしくない構造で、
抵抗なくするする読めます。
これは本当にドイツに存在するホスピスの
シェフの話。 テレビのドキュメンタリー番組で
紹介されたのが発端だそうです。
キャリアを積んで将来を有望視されていたシェフが、
「何か違う」と満たされなかった従来の働きの場を離れ
ホスピスに飛び込み、重篤な患者たちのために心を砕き
腕をふるっている様子が、きめ細やかに綴られています。
その料理の一つ一つが「セレブが喜びそうな高価なご馳走」も作れる腕利きが作る
「本当に懐かしく愛おしい家庭料理中心のオーダーメイド」で、文句なしに魅力的です。
毎日、シェフは一人一人の患者と話をして、本当に口にしたいものを提供します。
入院の日には、ウェルカム・スイーツを部屋に準備することも忘れません。
毎日毎日、ビタミンジュースもコース料理もお菓子もジャムも、全部手づくり。
そうかと思えば、「市販の(チープな)ハンバーガーが食べたくてしかたない」
という一人の患者のために、それを買いに走ったりすることもあります。
(このエピソードにはジンときました。)
好きな食材やメニュウがたくさん出てくるので、そこも楽しませていただきました。
が、日本人が読むと、「患者がこれまでの人生の中で口にしていて懐かしがる料理」が
「よそいきの西洋料理」に近い捕らえられ方をするかも、という残念さはあります。
許容人数11名というホスピスの様子や、患者たちの心の揺れと肉体的な苦しみ、
それを支える多くの職員、ボランティア、金銭的な援助、社会の仕組みなどに
関する記述は、どうしても日本の医療の現状と比較をせずにいられませんし、
いろいろと考えさせられるところが多かったのでした。
ただ、料理という切り口から書かれていることで、これまでホスピスや
終末医療に関心の無かった人や若い人にも、わかりやすい本になっています。
また、写真も挿絵も無い、という潔さ(配慮?)は、かえって良かったと思います。
心にひっかかった箇所をここに。
「食事は他人に構わず自分で好きに選ぶことのできる最後のオアシスだ。
他人でなく自分だけが主導権を持つ楽しい時間。 人の心を開放する扉にもなる。」
※ 『人生最後の食事』 Den Tagen mehr Leben geben
デルテ・シッパー・著 シンコー・ミュージック
2011年8月初版 1,200円+税
ISDN978-4-401-63592-4