故・吉本隆明氏が食べ物について書かれた
ものを、娘のハルノ宵子さんが追想の形で
肉付けしておられるのですが、家庭の中で
誰かが誰かの老後の世話をして看取る、
という大きなテーマも見え隠れして奥深い本。
ハルノさんが、ある意味で、ばななさんの活躍を
裏から支えてこられた、とも言えるのでは...。
また、ハルノさんは漫画家として知られていますが、歯切れの良い
文章のほうにも、誰にも真似のできない味わいと力がこもっていて
こういうのを「カエルの子はカエル」と言うのかな、と思いました。
この一節が気になったので抜き書きを以下に。
死んだら味の記憶は、どこに刻まれるのだろう? と、
最近よく考える。
自分が美味しいと感じる物を食べた愉しさは、客観性もなく
他人と相関するでもなく、ただ自身が生きた記憶のみに
完結するだけに一層考える。
「ただ自身が生きた記憶のみに完結する」のは
食べ物がらみだけではなく、その人の人生のほとんど大部分、
だと考えることもできますね・・・。
ほとんどの思いをすべて抱えて墓場まで、ってこと。
共有、という言葉の薄っぺらい使われように
心が寒くなることもあるので、なおさらそんなふうに考えるのでしょうか。
※ 『開店休業』 吉本隆明 ハルノ宵子・著
幻冬舎文庫 2015年12月初版 580円+税
ISBN978-4-344-42422-7