刑事クルト・ヴァランダーが活躍する北欧・
スウェーデンの推理小説シリーズは、作者・
ヘニング・マンケルが癌に倒れ、大変惜しい
ところで立ち消えになってしまいました。
重篤な病気がいきなり発覚し、その直後の混乱から
どうにか這い上がって最後まで文筆活動を続けた、
その最後のエッセイ集を手に取るために、まず
ヴァランダー・シリーズの最後の作品『霜の降りる前に』を再読しました。それから気合を入れて、このエッセイ集『流砂』を。
「絶筆であり、遺言でもある」というコピーが付いていました。
エピソード的に紹介される様々な美術品や、既に鬼籍に入っている
人たちのエピソードは、これまで知らなかったものが多かったので
これだけでもいくつもの衝撃が襲ってきました。
例えば、怖い古い絵画や、放射性物質が見出された当時の犠牲者の話、
等々です。
その恐ろしさを越えて伝わってくるのは、マンケルの視界、視点、発想が、
深刻な病を抱え、それを自覚し、受け入れてから、より壮大になり、
カラリとした達観へと向かっている点です。 人は必ず死ぬ。そして、
ほとんどの人は、長い年月の間に忘れられてしまうのだ、ということ。
新型のウイルスが世界中に広がり、人々の生活が大きく変わるほどに
なっている昨今、気持ちが和みそうな本以外は、積極的には
手に取れなくなっている自分がいますが、逆に今だからこそ
腹にストンと落ちる‘何か’が、こういう類の作品には含まれている
ようにも思えるのです。
マンケルの母国では、本作は2014年に出版され、彼は翌年に死去。
日本では、2016年に柳沢由美子さんの訳で出版されています。
※ 『流砂』ヘニング・マンケル・著 柳沢由美子・訳
東京創元社 2016年10月初版 2,400円+税
ISBN978-4-488-01065