「本当に語学ができる人は、最も平易な文章で、
何もかも表現することができるのかもしれない」と
ある教師が言いました。
平易、とは何ぞや。
好きな文章を書く人は、たくさんおられますが、
池澤夏樹さんと長田弘さんは、どこで何を書いたものを読んでも
いつもわかりやすくて、しかも切れ味が鋭いので、特に好きです。
池澤夏樹さん。
書評も好きですが、現在続けて読んでいるのは、
『すばる』(集英社)連載中の「異国の客」。
メールマガジンとしても配信されています。
7月号に、パリのミュゼでゴーギャンやピカソたちの絵画を
真摯に鑑賞するところが出てきます。
「そこに見えるものの奥行きを知るには、
絵を飾った壁面に並行する通常の経路ではなく、
それと直角に絵の中へ踏み込まなければならない。
それには準備がいるし、
その場でもエネルギーを投入しなければならな い。 」
もうひとり、長田弘さん。
詩人ということになっていますが、こんな括りはどうでも良くて、
とにかくスッパリ心にくい込んでくる言葉を使う人です。
料理や音楽にも、抜群の文章で切り込んでくるし。
詩文集『人生の特別な一瞬』の中に、
やはり美術館のことを書いた「美術館へゆく」という作品があります。
「絵を見るということ、彫刻を見るということは、
日々のいつもの時間のなかからぬけだして、
絵を見にゆく、彫刻を見にゆく、そこへ見にゆく、ということだ。
(一部略)
ただそうしているだけで、気がつくと、いつのまにか、
澄んだ川が無言の空を映すように、
無言の絵、無言の彫刻を映して、
じぶんの気もちが澄んでいる。」
私の場合、仕事としてダンスやアートについて書く、
という行為について、壁にぶち当たることが、たびたびあります。
目の前で黙しているものに対峙し、
はなから消えてゆくものを書き残し、伝える、という作業の困難。
けれど、「不可能ではない。しっかりやればできるのだよ」という
お手本が、あちこちにいくつもいくつも存在しているのを知ると、
また目線を上げて前に進むことができそうな気がします。
(あんまり素晴らしい手本だと、目標が遠すぎてガックリ、
ということも、もちろんあり。)
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*池澤夏樹公式サイト「カフェ・インパラ」
http://www.impala.jp
*「異国の客」は『すばる』(集英社)に連載しています。
http://subaru.shueisha.co.jp/
*『人生の特別な一瞬』 長田弘
晶文社 2005年3月初版