その珈琲店は、神戸の坂道に、ずーっと静かに立っていました。
会員制。 神戸に何のゆかりもない学生の私には、
外から覗くことくらいしかできない、特別の店でした。
阪神淡路大震災の後、ついに店は会員制を廃し、
一般のお客さまにも門戸を開くことになります。
それでも、長い間、神戸、そしてこの店を、訪れる機会の無い私でした。
先日、ついに念願かない、その憧れの店の中へ。
使い込んだアンティークの家具や調度品に囲まれながら、
ゆっくりと珈琲にきらきら光るコーヒーシュガーをぱらりと落とし入れ、ひと口。
それから、ブルーベリーの実のそのままが、中にちゃーんと残っている
ケーゼ・クーヘン(こってりしたチーズの焼き菓子)を。
美しく細工されたお菓子もたくさん揃えてありますが、
私はこの店には料理にまで飾りは要らないような気がしたのです。
震災後の街からは、私の思い出中の素敵な景色や住宅、店が
たくさん消えてしまっていました。
震災の朝から、ずーっとテレビに張りついて見た報道映像を思い出しました。
新しいものもたくさん生まれているはずですが、
それらに出会うには、また戻って行かなければ。
まだまだ時間がかかりそうです。
街を歩きながら感じる、かすかな心の痛みと
珈琲の苦みが、私の奥底で静かに融けあっていきました。
※お店の名前は「北野坂にしむら珈琲店」と言います。
2階ではフレンチも。ここは「特別のデート」にとっておきます。
(そんな日、いつ来るんだろう・・・。)
http://www.kobe-nishimura.jp/kitano/index.html
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