頑固者のハーバートが、
長年仕えたルチアーノの私生活について書いた『王様と私』。
そう。これは、先日亡くなったばかりの歌手、
「ハイC(高音)の王様」と賞賛された、
パヴァロッティの私生活と裏話をまとめた本。
著者、ハーバート・ブレスリンは、36年間も
パバロッティのマネージャー兼広報官でした。
パヴァロッティよりも10歳以上年上。
メリットを感じたからこそ続いたのでしょうが
長い忍耐の日々でもあったことと思います。
「暴露本」というと、書きたい放題、とことん意地悪くなりがちですが
これは、あまりにも天真爛漫な王様、しかも神さまからの
素晴らしい声という贈り物をもらって、それをもてあます芸術家の
笑えるエピソードも、しんみりさせる裏話も、
周辺にじーっと仕え続けている(著者をはじめとする)
ごく普通の人間たちのあきらめに似た寛容も、
それらを忘れずに散りばめた内容になっています。
「彼は引退することをおそれていたのだと思う。
それにどう対処すればいいか、わからなかったのだろう。
困ったことに、ルチアーノは歌うのをやめた後、
何をするかを考えていなかった」
「歌わないとなると、機嫌が悪い。
だが歌うとなると、それはそれで機嫌が悪い。
どっちにしても満足できない」
・・・さもありなん。‘世にも稀な生き物’だったのだもの。
「神の意思を歌で伝えるだけの器」だったのだもの。
あの巨漢から発せられる音波そのものが
輝きや希望や華やせつなさや、その他たくさんの感情を
ストレートにみんなに伝えることができた事実。
しかも、録音を電波で飛ばしても、その力が衰えないなんて!
たくさんの人が長く長く心に、そして耳にとどめておくでしょう。
※『私と王様』
友人、時には敵 そしてマネージャーだった私が
栄光の王座に就いたパヴァロッティの私生活を修正なしで公開する
ハーバート・ブレスリン、アン・ミジェット:著 相原真理子:訳
集英社 2006年12月初版 2,800円+税 ISBN4-08-773453-6
コメント