最終のバスを逃してしまった夜。
やっと拾った個人タクシーの座席に座った途端、
たきしめられたお香の、すーっと強く甘く通る香りが
私の全身を包みました。
白髪の運転手さんに「お香ですよね?」とうかがうと
真一文字の口が、心なしか緩んだようでした。
「そうですよ。わかってくれる方はほとんどありません。
こうやって声をかけていただいたのも久しぶりです。
和服姿の女性でさえ、「これ何の匂いですか?タバコ?」
なんて、平気で尋ねてくることもあります。いや、ホントに。
「葬式の帰りの人を乗せたの?線香みたいな匂いがする」と
言われることもあります。 お香は日本が誇るべきものなのに。
そんな時には、もうそのお客さんと話す気力も無くなりますよ。
晩に車庫に入れてから、窓を閉め切っておいて
日中うまく香るようにたきしめるのです。
インドや中国のものよりも、国産のお香が好きですね。
この街を走っているタクシーの中でも
こうやってお香を使っているタクシーは、私のだけかもしれません」
「一日の最後に、本当に素晴らしいプレゼントでした。
ありがとうございました」と言って、車を降りました。
疲れた身体と心に文字どおり沁みた、忘れられないプレゼントでした。
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