バットマン・シリーズは、(映画館で公開されたずっと後に)
テレビでしか観たことがありませんでした。
つまり、自分から財布の紐を緩めてまで観たことがなかったのです。
ところが、今夏、メディアに紹介されたこの映画の批評のどれを読んでも
最新作の『ダークナイト』に、バットマンと敵対するキャラクターの
ジョーカー役で登場したヒース・レジャー(Heath Ledger)が、
とにかく名演だったと‘べた褒め’なので、なんとも気になり始めました。
しかも映画完成の後に、この俳優さんが
たったの29歳で亡くなってしまったことも手伝って、
この人の話題で持ち切りだったので、ますます観てみたくなりました。
たいそう苦しみながら役を作り上げていったのだろうな、と
画面からも読み取ることができるような気がしました。
舌の痙攣具合、皺の1本、目玉のちょっとした動きからも
目が離せないような、それでいて、凝視するのは怖いような。
「悪から揺り動かされる脆い正義」というのが
私の読み取ったこの作品のテーマです。
「世の善悪、人の幸せとは何だろう」と100回素直に考えるより
これをどーんと1回観るほうが効果的かも。
カタカナのタイトル『ダークナイト』から、私は『暗夜』の意味だとばかり
思い込んでいました。(だって、コウモリは夜に活動するから。)
が、実は『暗黒の騎士』(’The Dark Knight’)だったと
映画を観てからやっと気づきました。 まずいでしょ、この邦題。
光に包まれたような輝かしいヒーローは、いなかったんです。
一番心に残ったジョーカーの台詞は、次のとおりです。
(バットマンに向かって)
「あんたにいてもらわないと俺のいる理由が無いんだよ」
("You complete me."という台詞の拙訳)
正義と悪は、離れて対峙しているものではなく、抱き合わせ。コインの表と裏。
この世の中では二者が複雑に絡み合い、互いに影響し合って、
その性質も刻々と変化しています。
つまり、正義の側に立っている者たちの中にも、
「悪にいてもらわないと俺のいる理由が無いんだよ」という
心の動きがあるかもなあ、ということ、です。
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