10年くらいご無沙汰していた和食の店に、
急に思いたって知人をお連れすることになりました。
最近は、消えうせてしまう店や、経営や調理人が変わってしまう店も
たくさんあるので、料理を食べ始めるまで
「前よりグレード・ダウンしていたらどうしよう」と心配だったのですが、
オーナーのおじさんも元気な様子で昔の印象も変わらなかったので、
安心・・・というよりも、新しい良い店を開拓した時よりももっとうれしかったのです。
このオーナー、割烹の調理人が着るような上着を着ているところを
見たことがありません。
接客の前の準備時間にはどんな格好をしておられるのかわかりませんが
給仕の時間には、自分の選んだ普通の服を着ています。
セーターとかベストとか、動きやすいものを。
お給仕だけのための女性を置いているにもかかわらず
自分でおしぼりやお茶もどんどん静かに出してしまいます。
早起きして、近所の林や森でとってきた草花を
必ず小さな店のあちこちに活けています。
これも開店当時から変わっていない習慣。
ぼろぼろに虫が喰った木の葉が、これほど美しいとは!
供されたものはどれも心のこもったお料理でしたが、
中でも今回強く印象に残ったのは、里芋でした。
上等のおだしにかたくりを合わせておいて
蓋物に張り、里芋をやわらかくつぶした団子の中に
鶏そぼろを忍ばせたものをのせて、
上から生姜のおろしたものを多めに飾ります。
一見、とてもシンプルな料理。
極限まで薄味ですが、この一品の余韻が
長く長く身体の中で続くほど素晴らしかったのでした。
身体が温まる、という表現では言い当てていませんね。
身体の奥に、熾火がいきなり登場して、それが
手足の先にまで瞬時に、しかも静かに届いたような感じ、とでも。
「どうやったら、あんなに柔らかな食感と味になるんだろう」と
一生懸命に考えるのはヤメにして、おじさんのプロの力を
ただぼんやりと味わう「鈍な客」、というのに徹するのも
これまた楽しみなのでありました。
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