どんな映画が今の私にふさわしいのだろうか、といろいろ考えた結果と、
スケジュールの都合とを照らし合わせて、今年の締めくくりに観たのはこの2本。
『無言歌』は、ドキュメンタリー映画の監督が「中国で本当にあった僻地での
労働改造の実態(1960年)を、できるだけそのままそのとおりに」撮った作品。
つまり、限りなくドキュメンタリーに近いドラマ(映画)です。
草木もロクに生えないような砂漠の中で飢え、寒風に凍え、希望もついえて
命を落とし、弔いも充分でないままに朽ちてゆく人たちの様子を伝えています。
‘食べる’という行為そのものまで、ままならない状態にあっても、
人間としての尊厳を守ることや、生き延びることが可能なのかどうか。
そもそも、尊厳とわれわれが思っているものは、真の尊厳であるのか。
最後の最後に至るまで、人は思いやりを持った「人」であることができるか。
それはわれわれ一人ひとりに対する厳しい問いかけです。
このような映画を観ながら、平気でスナック菓子をバリボリむさぼっている
隣席の人の神経を、私はさっぱり理解することができませんでした。
もう一方の『エル・ブリの秘密』は、スペインの超有名レストラン(一年のうち
6ヶ月しか営業せず、世界一予約が取れ難い店だとも言われる)で働く人たち
の様子を、これまた淡々と映像に記録したものです。
ここには新鮮で豊かな食材、腕利きの料理人、食を楽しむことのできる、健康で
文化的で財力と暇のある客が集い、「食の最先端」を追求できる環境が整っています。
日本人の鑑賞者にとって興味深い点の一つは、日本の食材(例えば、ゆず、
柿、抹茶など)や、調理法や発想を、積極的に取り入れているところです。
新シーズンに加わったスタッフたちのために、「日本人はこれ(オブラート!)で粉薬を
こんな具合に飲むんだよ」というレクチャーをしているフェラン・アドリアを観ようとは!
「ヨーロッパ人が発見する日本食、日本の食材」というアングルからも楽しめますよ。
庭の土の部分を箒で掃き清めているスタッフが映ると、「日本の寺から得たヒント?」
と思ったり。 この店のアプローチを、なんでもかんでも「素晴らしいね」とは思いませんが
身近な素材の魅力を知り尽くしてはいない、という私たちの姿勢を省みる場面はいくつも。
ちなみに、このレストランは、現在、次の飛躍への準備ということで閉じたままです。
エル・ブリの系統の店は、「食」というよりも「アート」に近い作品を提供する場所であり、
それはそれで、新しい発想や驚き・感動を人々にもたらす、という意味では、素晴らしい
と思います。 また、一種のラボですから、この形式だと、カリスマ一人だけの存在では
商売にはなりにくそうです。 チームとしてうまく回る仕組みの構築が必要。
美しい記録本も出ていますので、書店や図書館でぜひチェックしてみてください。
例えば・・・こんな本など。
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