黒いカシミヤのロングコートが、そもそも異様でした。
見るからに上等のコートの衿と袖口はビロードの黒。
カジュアル全盛の街中では、品質の度合いとボリュームが
最大級であることだけでも、妙に街の風景から浮いて見えたのです。
40歳半ばくらいの女性。 黒髪のボブ。
黒いコートの下には、白黒の抽象柄のワンピース。
首に沿った長さの真珠のネックレス。
コートの衿にもクラシックな真珠のブローチ。
黒い表革の手袋。 黒いフェルトの帽子。
黒いストッキングに黒い表革のアンクルブーツ。
手提げ型の小ぶりのハンドバッグも黒。
(このバッグにだけ、全面にフランスの某有名ブランドのロゴが
ついているのが見えました。)
完璧を通り越して、‘鉄壁’のドレスアップです・・・。
でも、何故か「真似したい素敵」とは思えないのでした。
「何かがおかしい・・・」という第一印象。
頭の中の残像を何度も思い浮かべてみています。
化粧で固めた顔が無表情だったことも影響しているかもしれません。
誰かと生き生きしゃべっている最中だったら、印象は変わったでしょう。
あるいは・・・ シルキーなストッキングが、ちょっとぼってりしたタイツで
毛玉の一つも見えていたら・・・。
何もかも「おろしたて」に見えたのが、異様さの最大の原因だったのかも。
あぁ、女の観察って、つくづく冷酷無比・・・。
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