大江健三郎さんの恩師、渡辺一夫さんが記したという言葉。
「負けてはならない。 さう思ふ。
己の精神・思想に生きつくすのだ。
死は恐ろしい。 しかし、己の思想が破れて
死ぬのではなく、勝つのならば死も欣ばしい。 」
(1945年7月7日の日記より一部。 写真も同箇所より。)
即物的な戦争ではなく、自分の信念を貫く無形の戦い。
でも、「貫く」美学は、悲惨な現実の前に何度も壊れそうになっていたようです。
日記は、東京大空襲直後の1945年3月11日に始まり、
ある部分はフランス語で、ある部分は日本語で、小型手帳に
ペン書きされており、筆致も本書で確認することができます。
亡命や自死に言及している部分では、心が大きく揺れて
(ほとんど折れかけて)いる状況も、生々しく伝えています。
祈りだけでも駄目、怒りだけでも駄目、あきらめても駄目・・・
(生まれてからこのかた)バカンスに縁の無い私にとって、
記念日の多い日本の8月は、思索に沈む時でもあります。
何か一点でも(未読の)当時の記録を読むことを自分に課し、
「せめて忘れずに考え続けよう」と(だけ)はしています。
近隣の図書館(複数)で、このような敗戦時の日記類を検索してみたところ、
開架図書に入っているものでも、あまり頻繁に貸し出しされる様子が
見られません。
この渡辺氏の日記は、なんと、開架図書に入っていました。
つまり、‘その気’があって検索した人しか出会えそうにないのです。
一人でも多くの人の目に触れますように、と願ってやみません。
※ 『渡辺一夫 敗戦日記』
1995年11月初版 博文館新社 3,568円
ISBN4-89177-959-4
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