めったに覗かない古本屋に久しぶりに。
今まで見かけたことのないおじさんが店番をなさっていて、
「あれ、この人が店主だろうな」と思わせる貫禄のギョロメで
私をチラと確認した後、読んでおられた本へ視線を戻しました。
「古本屋には珍しく、クラシック音楽が流れているな・・・それもかすかに」
と耳を澄ますと、それはマーラーの交響曲第五番。
あらら、そろそろ第四楽章が近いのでは、というところにきています。
そうなると、アダージェットを全部聴くまではそこを動けません。
マーラーで客を呼び込み、足どめをはかろうとは、
店主はこれっぽっちも思っていなかったと思います。
こちらはまさに勝手にそうなってしまったわけでした。
あの切ないメロディーに誘われるように、もう亡くなってしまった
家族が大切に所蔵していた古めかしい本の山が思い出されて
足が止まってしまった、というほうが正しいのかもしれませんでした。