ご本人が生きておられたら、おそらく
公にすることを拒まれたであろう手紙の束。
大好きだったコーン夫妻宛てに綴られたものを
筆跡も含めてそのまま写真で、そして
さらに活字にもおこして収録した本。
(私にも大変なつかしい)薄いブルーの航空書簡(AEROGRAMME)に
インクで残された清潔感ある筆跡や、吟味された絵葉書の絵柄、
便箋として流用された日本の老舗菓屋の包み紙などに、美意識が
表れていて味わい深いと同時に、作家としてのベールの裏側に
どのような人格や世の中の見据え方が隠れていたのか、ということも
あからさまに見えてくるのでした。
どのような紙を選び、どのような形の文字を、どのようなインクで刻み、
どのように折りたたんで、どこにどのように宛名を書き、
どのような切手を貼って、どのようなタイミングで投函するのか。
電子メールとはまったく世界が異なります。
概して、ご本人が「見せるの、嫌だよ」と主張されるであろうものこそ、
私たちが見たい、知りたいもの、そして、おもしろく感じるもの
なのかもしれません。
個人的には、こういうものは、発表のタイミングも難しいだろうなあ、
と思います。
ブームが去って歴史の奥に飲み込まれる前に、というビジネス上の事情も
あるとは思いますが、関係者がすべて他界された後のほうが、心穏やかに
読める例もあるでしょうし。
この本、発売直後には迷いがあり、なかなか手に取れなかったけれど、
ここに至って結局我慢も限界に・・・。(笑)
沁みた一節をここに書き留めておきます。
「古典の簡潔さを求めること、簡潔な文章を書くことの勇気を
持ちつづけたいと思いました。」
(太字は私がつけたものです。お許しを。)
※ 『須賀敦子の手紙 1975-1997年 友人への55通』
株式会社つるとはな 2016年5月初版 2,850円+税
ISBN978-4-908155-03-1