現在の仕事の基地にするために決心をして
それまでほとんどご縁のなかった街を訪れた3年前、
小さな商店街で初めて遅い昼食をいただいたのが
ビルの一階に入っていた手打ちうどんの店でした。
近所でしょっちゅう外食する習慣がないため、ときどきしか
立ち寄れませんでしたが、誰かと待ち合わせて軽く食べたい時、
体力が落ちて台所に立ちたくない時などに、何度かお世話に
なってきました。
何より、朝に晩に、私が駅を使う際の通り道に店があるので
脱サラなのか、店主の素敵なおじさまが一人で黙々と下ごしらえを
する姿がガラス越しに見えると、「ああ、私も負けずに背筋を伸ばそう」
と、たびたび励まされてきたのでした。
少し前に、片腕である奥さまが事故にあわれて、店に通うことが
大変になってきたことを理由に、開業から5年で、自宅を改装して
店を来月からそちらに移す決心をされた、という貼り紙が出ました。
私と同様、通勤や買い物の行き帰りに、この貼り紙を
しんみりと時間をかけて読んでいる人が大勢いました。
店が無くなるわけではなく、訪ねて行こうと思えば行けないことも
ないのだけれど、これまでよりは縁遠くなるだろうし、おじさまの
姿を折に触れて眺めることもできなくなるのが、みんな淋しいのです。
閉店直前になると混むと予想されるため、
この週末に、とろとろの「湯葉たまうどん」を
カウンターで注文し、ご夫妻があうんの呼吸で
仕事される姿を目に焼き付けた後、心身両方へ
滋養とぬくもりをいただきお別れしてきました。
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