言葉を持たないバレエですが、小説やドラマをそのまま
作品化して舞台にのせると、うまくいった時には
原作や元本をまったく読まない門外漢にさえも
ストーリーが手に取るように理解でき、楽しめるのだ、と
よく言われています。
今年観たものの中では、次の3作が特に心に刺さりました。(鑑賞順)
・『椿姫』(ハンブルク・バレエ団、ジョン・ノイマイヤー振付、78年初演)
・『オネーギン』(シュツットガルト・バレエ団、ジョン・クランコ振付、65年初演)
・『うたかたの恋』(英国ロイヤル・バレエ団、ケネス・マクミラン振付、78年初演)
『うたかたの恋』は、正確には生の舞台ではなく、
中継録画を観たのですが、 オーストリア皇太子
ルドルフの実際のスキャンダル(謎の死)を
舞台化したもので、カンパニーの来日公演では
なかなか上演されない作品です。
容姿がそれを許し、演技力や体力がピークに達した男性ダンサーにだけ
主役をはるチャンスが巡ってくる、というもので、今季その力演が
録画されたスティーヴン・マックレーは、本当に素敵でした。
歴代の名演を尻目に、独自の役作りをきっちり打ち出していて。
怪我からの復帰を果たした後、これがもしかすると
録画のベストな(そして最後の)タイミングになるのでは、と
ファンも息を呑んで見守るなか、どこまでも品を失うことなく
闇に呑み込まれて命を失う皇太子を、太くかつ繊細に演じてみせました。
そう、ドラマを演じて見せる、ということが、ダンサーの仕事。
「空中で何回も回転して成功した、しない」ということだけで
点を稼ぐ競技とは別物の、大人の世界です。
その回転に、跳躍に、息遣いに、表情に、ドラマが見えるかどうか。
(皇太子の実生活と同様に)数々の女性と組んで踊る場面が多く、
何度も綿密な稽古を重ねた末に本番を迎えますが、「決して
慣れ合いにならないように(今、まさにそこで初めて起こる
出来事として)観客に見せるのが、自分たちの仕事だ」と
胸を張れる彼らには、納得~尊敬と同時に羨望も憶えてしまいました。
このような仕事を持ち、それに胸を張れる類が、この世の中に
いったいどれほどいるでしょうか。
ただし、そのピークの時期は非常に短いのですが。
来年もまた素晴らしい舞台に出会えますように、と願っているところです。
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