山口情報芸術センター(通称:YCAM/ワイカム)。
2003年11月1日にオープンした複合施設で、
市立図書館と3つのスタジオを内包し、
メディア・テクノロジーの表現に必要な最新ファシリティーを
(設計の)企画段階からすべて組み込み、専門スタッフを常駐させています。
「東京のように、毎日毎日なんらかの公演のために
スケジュールが埋まっているわけではない」という事情を逆手にとり、
内外からのアーティストや技術者たちを、長期間滞在させて、
(使われていない)空いているホールを贅沢に使い、
稽古・リハーサル・本番と、すべてがここで完結するようになっています。
これまで、この不利な点をプラスのエネルギーに変換して、
世界初演作品を着実に増やしてきました。
『Wanderlust 風来』。
日豪交流年2006 日豪ダンスコラボレーション企画の一環として、
10月7日(土)に世界初演されました。
芭蕉の『奥の細道』に触発された日豪の振付家・ダンサー・
衣裳家・映像作家・プログラマーたちが、個々の人生を“旅”にたとえ、
薄暗いシンプルなステージに繊細な表現を繰り広げました。
振付は、リー・ウォーレン(豪)と宇野萬(うの・まん/日本)の二人。
ウォーレンは、NDTや元のフランクフルト・バレエとも
これまで一緒に仕事をしています。
ウォーレンは、次のようにコメントしました。
「あるものや感情をそのまま(ベタに)表現することなしに、
核心をデリケートについてくる、日本文学の奥深さを、
いつも尊敬し、いろいろ読んでいます。
『奥の細道』は、勇気を感じる作品。
つまり、死を家の中でじっと待っているだけではなく、
自然の中へ自分から出て行って、命の燃え尽きるまでそれを自分で燃やそうとします。
私にもそうですが、個々の心の中の旅を、力づけてくれる作品だと思います」
宇野は、美術家としても評価されている人ですが、
今回は芭蕉の役で舞台にも出ずっぱりで、またウォーレンの主張を
がっちり受け止める役割も果たしていたようです。
枯れたように見える人間の中にも、いや、中にこそ、
膨大なエネルギーが宿っていることを
さらりと粋に料理して見せてくれました。
ウォーレン、宇野は、ともに、死の淵までいく大病から、
同時期に生還している、というエピソードも。
コラボ企画にありがちな、「どこか、あるいは誰かだけが突出して
自己主張してばかりの、切り貼りしただけに見える作品」にならなかったのは、
アーティストたちそれぞれが互いを尊重するなかで力量を発揮できたからだと
思えますし、長期滞在制作の影響も大きいでしょう。
細かく作りこんでいるはずなのに、自然に融合する瞬間が見えました。
YCAMには、日本国内からはもとより、海外からも、
「ぜひ滞在して、発信させて欲しい」という問合せ・申し込みが絶えないようです。
もちろん、一度制作発表したアーティストは皆「里帰り」を楽しみにしています。
※山口情報芸術センター(YCAM)の公式サイトはこちら↓↓↓から
http://www.ycam.jp/
※)『Wanderlust 風来』
東京公演は、10月11日(水)と12日(木)、シアタートラムにて。
(ただし、チケットは完売している、と聞いています。)
2007年、オーストラリアでの公演も予定されています。
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