2020年に(舞台作品として)来日を果たす
予定だったマシュー・ボーン版『赤い靴』は
2016年にロンドンで世界初演され大好評を
博しました。新型コロナの影響で、結局、
日本では舞台録画をシネマの形で上映することに。
ロシアバレエを率いて世界を回り旋風を巻き起こした
興行師・ディアギレフ。伝説のダンサー、ニジンスキー。
コクトーやH.C.アンデルセン・・・。
マシュー・ボーンは、男性ばかりが登場する『白鳥の湖』(1995年)で
一躍有名になった振付家・演出家ですが、本作ではさらに深く、
さらに魅力的に、さらに複雑に、多くの情報や想いをブレンドして
見せてくれます。その一つ一つのピースに対する愛情や敬意が素敵。
作品中で偉大な伝説やレトロなものがたくさん息を吹き返すと同時に、
現代の私たちが心地良く感じるスピード感やリズム、ユーモアや
ペーソスも盛り込んであり、それでいてゴッチャリしつこい印象が無い、
ということも、ボーンの力量を表していると言えるでしょう。
その『白鳥の湖』で注目されたダンサー、アダム・クーパーも
ディアギレフがモデルになっているとされるレルモントフ役で
圧巻の演技を披露。感情をほとんど表に出さず、飛んだり跳ねたり
回ったり、ということも無いのに、誰よりもしっかりと舞台を
支配してしまいます。 こういう魅力的な歳の重ね方をする人は
決して多くはありません。適時に適役に恵まれる運も必要なのでしょう。
ま、実在のディアギレフはぽっちゃり型でしたが、レルモントフは
スリムで。お洒落するとキレッキレで、そこはバレエ作品です。(笑)
クーパーの片方の眉が少し動くだけでも、感情の動きが
手に取るようにわかりました。立ち姿もたいそう美しいし。
レルモントフ役は、彼以外のキャストでは難しいかもしれません。
あぁ、生の舞台で観たいっ!
バレエダンサーで女優のモイラ・シアラーが主演して話題になった
映画『赤い靴』(1948年)、これはもうバレエ映画の古典とも言える
佳作で、彼女の姿や名前を多くの人たちが憶えて(崇めてさえ)いますが、
ボーン版では(少なくとも私は)レルモントフにばかり目が吸い寄せ
られてしまい、「肝心の、赤い靴を履いてしまった女性ダンサー役」には
気持ちが入りませんでした。こちらの役は、先々、逆にいろいろな
キャストで観比べたいと思います。
「昔の映画?そんなのまったく知らない」という人でもボーン版を
楽しむことができる、というのがこれまたスゴイと思います。
お近くの映画館で上映がなされる際には、(期間が短いかもしれませんが)
ぜひチェックしてみてください。