「天才ヌレエフの再来」というレッテルがついて
回るバレエ界の有名人、セルゲイ・ポルーニン。
英国ロイヤル・バレエ団を電撃退団。
未だ若い(1989年 ウクライナ生)のに、
噂ランクのものも含めてエピソード多数。
ホージアのヒット曲『TAKE ME TO CHURCH』のミュージック・
ビデオ映像(You Tube)により、バレエに縁の薄い人の間にも
知られるようになりました。
第5ポジションのドゥミ・プリエが、踊っている途中でも完璧なんて!
ダンサーの卵も、教師も、プロも、皆が欲しいものを、成人年齢に
達する前から完全に備えてしまったとしたら、そして、続けるための
モチベーションを失ってしまったとしたら?
今月公開のこのドキュメンタリー映画を、春から楽しみにしていました。
天才って・・・本当にいるのね。 やっぱり苦しいもんなのね。
というか、たまたま肉体を使った芸術表現が評価されて、生活の糧も
そこから得ておられるわけですが、‘そこにくっつかない人生’を
本人はハナッから望んでいるような気がします。
凡人がいくら訓練しても得られない身体的な条件に恵まれ、一流の
訓練を受けてきた・・・でも、本人は「好きになれない」んじゃ
ないかしらね。与えられた自分の役割や仕事を。 苦しそうです。
「アスリート並みに、20歳代で引退」という道が、彼に用意されて
いたとしたら、晴れてそれを選んだのかもしれませんね。
ポルーニンの場合、ヌレエフとは異なり、比較的早くから西側(英国)で
教育も受けることができ、活躍の場も得ていたはずですが・・・
幼少期からその才能を認められていながら、自国でも学費免除とは
いかなかったという現実や、結局のところ、仕事を求めてロシアへ
戻った、という皮肉も合わさって、いろいろと考えさせられました。
抱えている事情、苦しみや闇はやはり深いものなのでしょう。
薬を多用し続けているのも気になるところです。
ダンサーにはドーピング検査なんてありませんし、ね。
概して、私はダンサーのエイジング、つまり、ピークを過ぎてからの
生き方について、非常に興味を持っています。
レイフ・ファインズが監督として撮るヌレエフの伝記映画
『The White Crow』(白いカラスの意)の公開も
(主演ではないようですが)待たれます。
ポルーニンは映画出演(俳優業)に移行していくのでしょうか。
ダンサーのマネージメント業をも計画しているようですが、
そちらは俳優業以上に険しい道なのかもしれません。
余談。鑑賞後に、上映館で隣り合わせた男性二人の会話。
A「なんで、あんな風に斜めに(つまり、無理な体勢で)飛んでも、
きれいに着地できるんだろう?」
B「ん・・・羽が生えてるからじゃない?」
そう。見えない羽を神様から与えられた。でも、それをいつまで
どうやって使うかに悩まされ続けている若者の実話、現在進行形。
※ドキュメンタリー映画
『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』
原題『DANCER』
2016年イギリス、アメリカ 85分
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